湘南鎌倉総合病院循環器内科
不整脈アブレーション in 2019年

頻拍性不整脈に対して、カテーテルから主として高周波電流通電を局所異常回路に対して行い、不整脈を根治する治療法です。伝統的な対象疾患は、発作性上室性頻拍症、WPW症候群、心房粗動、頻発性心室性期外収縮でしたが、近年は発作性心房細動のみならず慢性心房細動に対しても積極的に行われるようになってきました。現在では、従来から行われてきた高周波通電アブレーションのみならず、マイナス70度まで異常電流回路組織を冷却し、これにより異常回路を遮断するクライオ・アブレーション(Cryo Ablation)も多数の患者さんに対して行っており、患者さんに対する負担軽減に寄与しています。

心臓疾患の中で不整脈は大きな分野を占めます。不整脈に対するインターベンション治療は、長く徐脈性不整脈に対するペースメーカー植え込み術に限定されてきました。そして、頻脈性不整脈に対する治療法として循環器内科医が有していた手段は薬物療法しかありませんでした。これに対して、1990年頃より、カテーテルにより、頻脈性不整脈の発生箇所を直接処置して治療するカテーテル・アブレーション (Catheter Ablation)が行われるようになりました。発生箇所では局所的に微小回路が形成され、刺激が短い周回回路を無限に周回し、これにより頻脈が発生するのです。この周回回路に対して何らかの方法でカテーテル先端からエネルギーを与えることにより、この周回回路を停止させるのです。これを実際に行うためには、(1)周回回路の場所を同定する (2)その部位に効率的にエネルギーを与え回路を破壊する ことが必要です。(1)のために不整脈循環器内科医は、カテーテル電極を用いて、心臓内の各所を正確に測定し、微妙な心電図の伝達時間差から異常な回路の部位を同定します。そして、その部位にエネルギーを与えるのですが、これには歴史的に (A)直流電気ショックを与える (B)高周波電流を通電し、熱エネルギーを局所に与える という2つの方法があり、当初は直流電流通電 (DC Shock)が主流でしたが、治療の安全性とエネルギー・レベルをコントロールし易いために、現在では高周波電流通電 (RadioFrequency: RF-Ablation)が用いられています。 当初カテーテル・アブレーションが対象としていた疾患は、頻拍性不整脈である発作性上室性頻拍症 (Paroxysmal SupraVentricular Tachycardia: PSVT)が主流でした。特に副伝導路を有するWPW症候群に伴う発作性上室性頻拍症はその治療成功率の高さと、劇的な改善効果により以前はもてはやされましたが、すぐに対象患者さんの多くが根治されてしまい、時々救急現場を訪れる以外はあまり臨床現場で見られなくなりました。その次に治療対象となったのは、心房粗動でした。これに対しても、心房を線状焼灼 (高周波通電により加熱して異常回路を変性させることを、「焼灼」と言います)することにより劇的に治癒されることが分かりました。これらの頻拍性不整脈に対するカテーテル・アブレーションの治療効果は既に確立されていると言って良いでしょう。 次いで不整脈循環器医師の目標となったのは、生命に危険を及ぼす心室性頻拍症や、生命の危険は無いものの、日常生活が阻害される頻発性心室性期外収縮でした。ある種の心室性頻拍症に対しては、カテーテル・アブレーションは非常に有効な治療効果を及ぼしますし、多くの頻発性心室性期外収縮に対しても有効性を示します。 不整脈循環器内科医にとっての現在の主な目標は、発作性心房細動あるいは持続性心房細動に対するカテーテル・アブレーションです。心房細動の状態においては左心房内に血栓を生じることがあり、心原性塞栓症(脳梗塞や下肢動脈の閉塞)の原因となり得るため、心房細動に対して正しい治療を行うことは臨床的に重要です。心房細動の多くは肺静脈から発生する期外収縮が引き金となって起こりますので、肺静脈の入り口を円周状にカテーテル・アブレーションで隔離することよって心房細動の根治が期待できます。当院では2016年からはクライオバルーンアブレーションも導入しました。クライオバルーンアブレーションは肺静脈の入り口に圧着させたバルーン内に冷気ガスを送りこみ、マイナス40~50℃まで冷やして一気に肺静脈を隔離する治療方法です。クライオバルーンアブレーションの導入にて高周波アブレーションよりも治療時間の短縮が可能となりましたが、さらには治療成績の向上も期待しております。その他にも最新の治療機器を導入し心房細動に対するカテーテル・アブレーションの治療成績は年々向上しております。現在では発作性心房細動においては1回の治療で85%の根治が見込めます。

当科では、村上正人部長を中心とした不整脈チーム(水野真吾部長、真下優香医師、山田隆史医師、林高大医師)が、カテーテル・アブレーションを行っております。2019年一年間でカテーテル・アブレーション治療総数は 777件に達しました。この内心房細動に対するカテーテル・アブレーションは 575件でありました。これは全国でも有数の不整脈治療施設であることを意味します。