湘南鎌倉総合病院循環器科 2019年一年間診療実績

2019年一年間で、当科が心臓カテーテル室で行った検査・治療手技総数は5,108件でした。毎日にならすと一日14.0件ということになりました。この内、経皮的冠動脈インターベンション (PCI)は 924件でした。ちなみに FFR (Fractional Flow Reserve)測定については、463件で行われ、IVUSは677例、OCTは287例で用いられました。140例の急性心筋梗塞症例を含め、177例に対して緊急PCIが行われました。Rotablatorは37例、Coronary Orbital Atherectomyは64例に対して用いられました。

末梢動脈に対する血管内治療 (EVT)の症例数は大幅に増えました。末梢血管治療(Endovascular therapy:EVT)の対象は、下肢動脈 (腸骨動脈・浅大腿動脈・膝窩動脈・膝下血管)の病変のみならず、腎血管性高血圧症を引き起こす腎動脈狭窄症や、鎖骨下動脈狭窄症、そして深部静脈血栓症などの静脈疾患も症例によっては対象となります。2019年の1年間で、下肢動脈を470例、腎動脈を15例、鎖骨下動脈を8例、静脈病変を含むその他の治療を21例合計512例に対して EVTによる治療を行うことができました。ご紹介も相まりまして数年前の2倍の件数と増加しており、全国でも有数の症例数を有しております。

不整脈に対するカテーテル・アブレーション治療は、777件に達しました。中でも心房細動に対するカテーテル・アブレーションは 575件に達しました。これには積極的に行っているクライオ・アブレーションの効果が大きいと考えられます。

当院での不整脈デバイスの特徴は、心臓カテーテル治療に熟知した医師による迅速な手技、指導医を有するリード抜去術、の2点が挙げられます。

2019年は全体で292件に対して行われ、新規移植症例は185件で、ペースメーカーが138件(内リードレスベースメーカー29件)、植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)が13件、心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)が21件、リード抜去術が30件、ルーブレコーダー植え込みが13件で行われました。これらの実績は神奈川県でも随一の件数であり、全国的にも多い症例数です。

また最先端治療法である TAVI/TAVR (Transcatheter Aortic Valve Implantation/Transcatheter Aortic Valve Replacement: 経カテーテル的大動脈弁植え込み術)の件数は139件と着実に増加しました。また、当院では手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療 (MitraClip)も先進的に治験により実施しておりましたが、2019年1年間では44件に達しました。また、心房細動患者さんに対する脳塞栓症予防ディバイスである左心耳閉鎖術に関しても日本最多の治験症例数12例以降、2例を経験しています。これらを含め、最新医療機器に関する治験件数は着実に増加し、日本における医療の発展に貢献しております。

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経皮的冠動脈インターベンション (Percutaneous Coronary Intervention: PCI)および FFR測定 in 2019年

経皮的冠動脈インターベンションは、循環器領域のカテーテル・インターベンション (Interventional Cardiology)の基本中の基本です。当科がここまで発展できたのも、その PCI の分野でこれまで果たしてきた功績の大きさに依存します。

2019年一年間の実績は、PCI症例数 = 924例でした。この症例数は2016年の 1,046例よりも低下していますが、これは FFR測定などにより、より厳密に虚血有無を評価した上でPCIの適応を決定する強い方針に切り替えたためです。これにより不要なPCIを患者さんに施す、あるいは受けて頂くことが無くなり、結果的に不必要な合併症をもたらす危険を回避することになります。

PCI症例数がその後極端に増加しない要因としてはいくつか考えられます。その最大の要因は、優れた薬剤溶出性ステント (Drug-Eluting Stent: DES)の出現でしょう。非薬剤溶出性ステント (Bare-Metal Stent: BMS)の時代と比較して明らかにステント内再狭窄 (In-Stent Restenosis: ISR)の発生頻度が低下していますので、繰り返して PCIを受けねばならない患者さんは減少しました。第一世代の DES (CYPHERやTAXUS)に比較しても現在臨床の現場において、通常診療の中で用いられている DES (Xience-Alpine, Synergy, Resolute-Onyx, Ultimaster, BioFreedom, Orsio)は難しい病変に対しても明らかに再狭窄低減効果を示しています。総合的に、この DESの進化により、再治療の必要性は 大きく低下しました。また当科では、数多くの新しい DESの治験を行っておりますが、これらの新しい改良された DESにおいては、さらに良好な成績が期待されます。さらにはここ数年の間に当科で主導的に行われてきた新しいDESに対する治験の中には、Ultimaster, Synergy, BioFreedom, Combo, Resolu-Onyx, Orsiroなどの既にPMDA (独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)により認可されたDESが含まれますし、現在更に治験が進行中のDESが数種類含まれます。また、当科においても行われた Absorb-Extend試験および Absorb-Japan試験でその有効性と安全性が評価された、高い期待を集めていた初の完全生体吸収性スキャフォルドである BVS (Bioresorbable Vascular Scaffold)に関しては、2016年12月よりには認可されましたが、残念ながらその後長期での安全性に関する懸念のため中止となりました。これらの臨床試験/治験でその安全性と有効性が評価された新しい DES/BVSが広くたくさんの患者さんに対して安全に使用されるようになることにより、たくさんの患者さんに対してより優れた治療が行われるものと考えます。

石灰化冠動脈病変は治療困難なもので、これに対しては従来ロータブレーターが用いられてきましたが、当科で治験が行われ既に厚生労働省より認可された冠動脈石灰化病変に対して非常に有効な先進的ディバイスである Coronary Orbital Athrectomy (DiamonBack 360)も、2019年には当科で64件に対して用いられました。

PCIの件数の伸びが鈍化している大きな要因として挙げられるのは、一次予防と二次予防の徹底ということが考えられます。一次予防というのは、冠動脈病変発症前から、虚血性心疾患を促進すると考えられる因子を除去することです。つまり、いわゆる冠危険因子として挙げられる、高血圧症、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症などに対して、早期から介入 (治療)を開始することです。もちろん、これらの臨床的疾病の治療のみならず、生活習慣の改善 (禁煙の徹底、日常的な適度な運動や、適正な体重コントロールなどなど)も重要です。これらの一次予防により、虚血性心疾患の発症そのものが抑制されてきています。また、冠動脈病変による疾病が発症した後でも、薬剤や生活習慣への介入により、有効な二次予防が徹底されてきています。これにより虚血性心疾患の再発率も低下してきています。

さらに臨床現場心臓カテーテル室では、FFR (Fractional Flow Reserve: 冠血流予備量比 とか 心筋血流量予備比 とか訳される)を測定しています。その総数は 2019年一年間で483例でしたが、これによりPCIが不必要な患者さんに対して不要なPCIが行われたり、本当は必要な患者さんに対してPCIが行われない、という事態を可能な限り排除しています。

これら全ての要因は、喜ばしいことです。齋藤 滋自身 1981年に初めて PCI (当時は PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty と呼んでいました)を行ってきてから既に39年間が経過しましたが、そのような自分の人生を振り返っても本望です。これはもちろん患者さんの立場で考えて、とても喜ばしいことであり、循環器医学の虚血性心疾患に対するささやかな勝利の証でしょう。

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血管内治療 (EndoVascular Therapy: EVT) in 2019年

末梢血管治療(Endovascular therapy:EVT)の対象は、下肢動脈 (腸骨動脈・浅大腿動脈・膝窩動脈・膝下血管)の病変のみならず、腎血管性高血圧症を引き起こす腎動脈狭窄症や、鎖骨下動脈狭窄症、そして深部静脈血栓症などの静脈疾患も症例によっては対象となります。2019年の1年間で、下肢動脈を470例、腎動脈を15例、鎖骨下動脈を8例、静脈病変を含むその他の治療を21例合計512例に対して EVTによる治療を行うことができました。ご紹介も相まりまして数年前の2倍の件数と増加しており、全国でも有数の症例数を有しております。

末梢血管の疾患は、全身の動脈硬化を反映しての病態であり、血管内治療だけの知識では不足があります。従って、EVTだけではなく薬物治療、運動療法、補助療法を総合的に行いながら全身管理が行える循環器内科医師による治療は、非常に重要なことと考えております。当院では飛田医師を中心に、適切な薬物療法と併せて、冠動脈インターベンション (PCI) で培った技術をいかしてEVTを施行しており、先進的な技術も取り入れることで救肢および再発の低減への大きな寄与をしております。

閉塞性動脈硬化症(ASO) による比較的軽症な症状としては、腸骨動脈や浅大腿動脈病変による、間歇性跛行(歩いて暫くすると、ふくらはぎが痛くなる、または重くなるといった症状)がありますが、これらに対しても、かつては外科的手術療法(バイパス術)でしか治療の出来なかった病変が、治療技術およびデバイスの向上とともに大多数の症例がEVTで治療可能となってきました。前述の様に様々な技術を活かし、2019年の浅大腿動脈領域の慢性完全閉塞に対する治療は、最も重症なTASCⅡ D病変も含め、100%の成功を収めております。

また、ASOにおいて重篤な下腿の潰瘍や壊疽まで至った場合、重症下肢虚血 (CLI; Critical Limb Ischemia)と定義されております。CLIは糖尿病や慢性腎不全による血液透析を施行している患者さんに多くみられます。本邦においては、腎臓内科医による緻密な加療および優れた透析管理にて、慢性腎不全患者さんに対して、世界に冠たる良好な長期治療成績が成し遂げられました。しかしその一方で、合併症としてのCLIが問題となっております。 当科ではCLI における膝下動脈病変に対するEVTも積極的に施行しております。しかし、CLIまで至ってしまった症例の場合、血管内治療だけでは無く、創傷管理、栄養状態の管理などの集学的な治療が必要です。ここで重要なのは、循環器科医師、形成外科医師、腎臓内科医師、外科医師、糖尿病内科医師、看護師、理学療法士、ケースワーカー、管理栄養士、臨床工学士、放射線技師などからなるチームで一人の患者さん、そして重症下肢虚血に晒され壊死・切断の危機にある下肢を救うというアプローチが必要不可欠です。このようなアプローチを行うチームをフット・ケア・チームと呼びます。当院では経験豊富な各科の先生が揃っており、神奈川県下でも有数のフット・ケア・チームを組み、CLIへの診療にあたっております。当科では、院内各部署と緊密に連携し、フット・ケア・チームに携わっております。血行再建や創傷処置の他、特殊な治療も当院で施行が可能です。高気圧酸素療法、LDLアフェレーシス、再生治療などです。これらの適応については、経験豊富なフット・ケア・チームのスタッフで協議し、患者さんにとって最良と思われる治療方針を決定しております。

こうした日常の臨床診療のみならず、治験や臨床研究に対しても、積極的に協力しております。下肢動脈に対する治験も複数行っており、全国の有数な病院と連携を組み、国内のデータを海外に発信することに貢献しております。
加えて、当院単独でも、学術的な活動を積極的に行っております。国内外の学会発表を行い、日本循環器学会、CVIT、JETなどと云った主要学会にも招聘されております。その一環として、当院で過去に積み上げてきた多数のEVT治療の経験を科学的に詳細に分析し、その結果を海外の英文医学論文雑誌に積極的に投稿して受理されております。このような活動を通じて、当科での治療成績を世界に問い、顧みて、今後の更なる治療成績の向上を目指しており、ひいては、今後の医学の発展に寄与すると信じております。

以上のように、新規の医療機器の導入や仔細なデータの蓄積を、日々行っており、本邦の患者さんに最良の医療を提供出来る様、尽力しております。

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カテーテル・アブレーション (Catheter Ablation: CA) in 2019年

心臓疾患の中で不整脈は大きな分野を占めます。不整脈に対するインターベンション治療は、長く徐脈性不整脈に対するペースメーカー植え込み術に限定されてきました。そして、頻脈性不整脈に対する治療法として循環器内科医が有していた手段は薬物療法しかありませんでした。これに対して、1990年頃より、カテーテルにより、頻脈性不整脈の発生箇所を直接処置して治療するカテーテル・アブレーション (Catheter Ablation)が行われるようになりました。発生箇所では局所的に微小回路が形成され、刺激が短い周回回路を無限に周回し、これにより頻脈が発生するのです。この周回回路に対して何らかの方法でカテーテル先端からエネルギーを与えることにより、この周回回路を停止させるのです。これを実際に行うためには、(1)周回回路の場所を同定する (2)その部位に効率的にエネルギーを与え回路を破壊する ことが必要です。(1)のために不整脈循環器内科医は、カテーテル電極を用いて、心臓内の各所を正確に測定し、微妙な心電図の伝達時間差から異常な回路の部位を同定します。そして、その部位にエネルギーを与えるのですが、これには歴史的に (A)直流電気ショックを与える (B)高周波電流を通電し、熱エネルギーを局所に与える という2つの方法があり、当初は直流電流通電 (DC Shock)が主流でしたが、治療の安全性とエネルギー・レベルをコントロールし易いために、現在では高周波電流通電 (RadioFrequency: RF-Ablation)が用いられています。 当初カテーテル・アブレーションが対象としていた疾患は、頻拍性不整脈である発作性上室性頻拍症 (Paroxysmal SupraVentricular Tachycardia: PSVT)が主流でした。特に副伝導路を有するWPW症候群に伴う発作性上室性頻拍症はその治療成功率の高さと、劇的な改善効果により以前はもてはやされましたが、すぐに対象患者さんの多くが根治されてしまい、時々救急現場を訪れる以外はあまり臨床現場で見られなくなりました。その次に治療対象となったのは、心房粗動でした。これに対しても、心房を線状焼灼 (高周波通電により加熱して異常回路を変性させることを、「焼灼」と言います)することにより劇的に治癒されることが分かりました。これらの頻拍性不整脈に対するカテーテル・アブレーションの治療効果は既に確立されていると言って良いでしょう。 次いで不整脈循環器医師の目標となったのは、生命に危険を及ぼす心室性頻拍症や、生命の危険は無いものの、日常生活が阻害される頻発性心室性期外収縮でした。ある種の心室性頻拍症に対しては、カテーテル・アブレーションは非常に有効な治療効果を及ぼしますし、多くの頻発性心室性期外収縮に対しても有効性を示します。 不整脈循環器内科医にとっての現在の主な目標は、発作性心房細動あるいは持続性心房細動に対するカテーテル・アブレーションです。心房細動の状態においては左心房内に血栓を生じることがあり、心原性塞栓症(脳梗塞や下肢動脈の閉塞)の原因となり得るため、心房細動に対して正しい治療を行うことは臨床的に重要です。心房細動の多くは肺静脈から発生する期外収縮が引き金となって起こりますので、肺静脈の入り口を円周状にカテーテル・アブレーションで隔離することよって心房細動の根治が期待できます。当院では2016年からはクライオバルーンアブレーションも導入しました。クライオバルーンアブレーションは肺静脈の入り口に圧着させたバルーン内に冷気ガスを送りこみ、マイナス40~50℃まで冷やして一気に肺静脈を隔離する治療方法です。クライオバルーンアブレーションの導入にて高周波アブレーションよりも治療時間の短縮が可能となりましたが、さらには治療成績の向上も期待しております。その他にも最新の治療機器を導入し心房細動に対するカテーテル・アブレーションの治療成績は年々向上しております。現在では発作性心房細動においては1回の治療で85%の根治が見込めます。

当科では、村上正人部長を中心とした不整脈チーム(水野真吾部長、西本隆史医師、真下優香医師、林高大医師)が、カテーテル・アブレーションを行っております。2019年一年間でカテーテル・アブレーション治療総数は 777件に達しました。この内心房細動に対するカテーテル・アブレーションは 575件でありました。これは全国でも有数の不整脈治療施設であることを意味します。

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経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (TAVI/TAVR) in 2019年

大動脈弁狭窄症という弁膜症は、昔は溶連菌感染症 (扁桃腺炎などが有名です)に引き続いて免疫反応の結果引き起こされるリュウマチ熱が原因として主因でした。しかし、現在では溶連菌感染症に対して、早期に抗生物質投与することにより、適切に治療が行われるため、それに引き続いて起こるリュウマチ熱の発生そのものが著しく低下しています。これに伴ってリュウマチ熱に基づく心臓弁膜症は発生そのものが無くなってきています。次の大動脈弁狭窄症の原因として挙げられる先天性大動脈二尖弁は、常に一定頻度で発生しております。この結果、先天性二尖弁による大動脈弁狭窄症は一定頻度あり、最近でも有名な芸能人がこのために大動脈弁置換手術を受けたそうです。

一方、先進国において、平均寿命の延長に伴う平均年齢の高齢化に伴い急速に増加しているのが、動脈硬化性大動脈弁狭窄症です。患者さんの多くは 80歳前後であり、重症大動脈弁狭窄症のために、日常生活が著しく阻害されているものの、それ以外ではしっかりとした社会生活を送られています。このような症候性重症大動脈弁狭窄症の生命予後は著しく悪く、二年生存率が 50%程度とされており、ある意味で手術不能な悪性腫瘍よりも生命予後が悪い、とも言われています。これらの重症大動脈弁狭窄症に対しても、外科的大動脈弁置換術を行えば生命予後が改善されることもこれまでに明らかとなっております。従ってこれらの患者さんがおられれば、いたずらに内科的治療で引き伸ばし、有効な治療の時期を失する前に外科的大動脈弁置換術を行うべきです。

しかしながら、動脈硬化性重症大動脈弁狭窄症患者さんは、高齢のために、多くの合併疾患を伴うことが多いのが現実です。例えば、手術すれば根治することが可能と考えられる悪性腫瘍があるが、重症心臓病の存在のために手術できない。あるいは、かつて胸部に対して放射線治療を行ったことがある、あいるいは過去に冠動脈バイパス手術を受けたことがあり、再開胸を伴う外科的大動脈弁置換術に大きな危険を伴う。さらには、慢性閉塞性肺疾患 (慢性気管支炎や肺気腫など)がある、あるいは間質性肺炎があり、全身麻酔が必要な外科的大動脈弁置換術がためらわれる。また、脳梗塞の存在や脳梗塞の危険性が大きいためやはり外科的治療がためらわれる。このようなことが臨床の現場では多く遭遇されます。このような場合、これまでは有効な治療を打てなかったのが現状でした。

しかし、2002年4月16日フランスにおいて、Dr. Alain Cribieによりこのような患者さんに対して人類で初めて経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (Transcatheter Aortic Valve Implantation/Replacement: TAVI/TAVR)が行われ、一人の重症大動脈弁狭窄症の患者さんの命が救われました。これが今に至る TAVI/TAVRの歴史です。

現在世界的に用いられている TAVI/TAVR (そもそもこの2つの言葉の使い分け何でしょうか? 実は全く同じ意味なのです。ヨーロッパでは TAVI > TAVR、アメリカでは TAVI < TAVRが用いられる傾向にあり、また、循環器内科医は TAVI > TAVRを好み、心臓外科医は TAVI < TAVRを好む傾向にあります)としては、バルーンでステントを拡張する人工生体弁付きステントである SAPIEN-XT, SAPIEN3という名前のものと、人工生体弁付きステントではあるが、形状記憶合金製なので、自己拡張型ステントである CoreValve, Evolut-Rという名前のものの4つのデバイスがあります。当科は CoreValveの日本国内治験実施施設4施設 (湘南鎌倉総合病院、大阪大学、国立循環器病センターおよび埼玉医科大学)の中の一つであり、2012年初めより TAVI/TAVRを行ってきました。また、2013年10月01日からは、厳しい施設認定をクリアした施設においてのみ、健康保険診療下での TAVI/TAVRを行うことが認可され、当科も当初よりその認定施設の一つであります。現在のTAVI/TAVR実施認定施設は、経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会ホームページに公開されています。

さて当科では経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会の定めるTAVR専門施設およびTAVR指導施設の基準を満たしており、2019年12月末日までに、治験での実施、倫理委員会認可の下での医師個人輸入による実施、および保険診療下での治療全て含め 553例 (2019年一年間で 139例)に対して TAVI/TAVRにより治療させて頂きました。TAVI/TAVRの実施に当たっては、循環器内科医のみならず、心臓外科医、血管外科医、麻酔科医、心エコー実施医、看護師、放射線技師、臨床工学士、理学療法士、コーディネーターなどの専門職種によるハートチームの形成が不可欠です。これは、非常に重症の患者さんに対して複雑で劇的な治療を成功裏に完遂するためには、一人の力ではなく、全員の力が必要なのです。この意味で、これまでの PCIのように一人の Super Starがいれば治療が完遂する、というものとは全く異なります。当院においては、すばらしいハートチームが作られ、円滑に治療が遂行されています。

また当科では、より安全性と有効性の高いことが予想される新しいTAVIディバイスに関する治験に 2015年より取り組んでおります。その中には先進的な TAVIディバイスである Lotus Valveも含まれています。Lotus Valveはこれまで治療困難であった大動脈弁狭窄症患者さんも安全に治療を行うことができる可能性を秘めたディバイスであります。この Lotus Valveは2020年02月にも臨床使用が認可される見込みです。また、大動脈弁狭窄症に対する治療のみならず、手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療 (MitraClip)に関しても、手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療 (MitraClip)も先進的に治験により実施しておりましたが、治験終了後の2019年1年間では44件に達しました。そして心房細動に伴う塞栓症予防のための新たな医療機器である Watchmanに対する治験にも次々と取り組んで来ました。この結果、これらのディバイスも日本国内で認可され、臨床に使用されています。これからの先進的な医療機器を早く患者さんの下に届けるため、私達はこれからも頑張っていくつもりもす。このように当科は日本国内でも大学病院を含めた他の医療機関では行い得ない最新の治療法に取り組んでいる最先端組織です。困難な心臓病に悩まれている患者さんのみならず、日本の医療を改革しくことを目指されている若い医師あるいはコメディカル・スタッフも一緒に頑張っていきましょう。新しい人々が参加されることを歓迎します。

当院では、毎週水曜日午後2時から大動脈弁狭窄症外来(通称 AS外来)を設けております。
もしくは、齋藤滋医師・山中医師・宍戸医師の外来でも対応させていただいております。大動脈弁狭窄症でお悩みの患者様がいらっしゃいましたら、我々湘南鎌倉総合病院ハートチームにご相談ください。

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ペースメーカー/CRT/CRTD/ICD植え込み in 2019年

当院での不整脈デバイスの特徴は、心臓カテーテル治療に熟知した医師による迅速な手技、指導医を有するリード抜去術、の2点が挙げられます。 2019年は全体で292件に対して行われ、新規移植症例は185件で、ペースメーカーが138件(内リードレスベースメーカー29件)、植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)が13件、心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT)が21件、リード抜去術が30件、ルーブレコーダー植え込みが13件で行われました。これらの実績は神奈川県でも随一の件数であり、全国的にも多い症例数です。

心臓は、刺激伝導系と云った回路を電気が流れることで、働いております。この回路が加齢などの原因で断線してしまい、脈が遅くなった状態が徐脈と云います。徐脈により、失神などの症状、心不全を来すことがあるため、外部から電気的な補充を行い、脈を正常まで戻す機器がペースメーカーです。症例に応じて異なりますが、静脈を通してリード(電線)を2本入れ、本体と接続したものを体内に植え込みます。また、2年前より心臓に直接植え込むタイプのペースメーカー(リードレスペースメーカー)が導入され、当院でも50例の植え込みを行っています。以前は施行できなかったMRIの撮影も可能な機種もあり、自宅に居ながら機器のチェックを自動で行ってくれる、遠隔モニタリングも積極的に導入しております。
植込み型除細動器 (Implantable Cardioverter Defibrillator: ICD)とは、重症の頻脈性不整脈に対し、除細動(電気ショック)を与えることで正常の脈に戻し、突然死を予防する機器です。ペースメーカーに、街中にある自動体外式除細動器(Automated External Defibrillator: AED)の機能が備わったと思っていただければ結構です。重症心不全や脈が速くなる頻脈性不整脈の患者さんは、不整脈による突然死を来すことが多く、薬物治療単独に比して有効性が示されています。
心臓再同期療法デバイス (Cardiac Resynchronization Therapy: CRT) とは、刺激伝導系の一部が断線することにより、心臓の電気的な障害を是正する機器です。電気的な障害が短期間続くことでは心臓の機能までは障害されませんが、長期的に続くと重症の心不全まで至ってしまいます。そのような患者さんに、通常よりも1本多く電線を入れることで、電気的な障害を改善し、ひいては心臓の機能まで改善させることが可能です。残念ながらどのような症例にも効果がある訳ではないですが、当院ではガイドラインを遵守し、70%の症例で改善を認めております。尚、CRTはペースメーカー機能のみのCRT-Pと除細動機能を併せもったCRT-Dの2種類があり、症例および患者さんの希望に合わせて、手術を行っております。
これらの不整脈デバイスの植え込み術は、1958年に心臓血管外科医による、徐脈性不整脈に対するペースメーカー植え込み術より始まりました。当初は弁当箱くらいの大きさでしたが、以後小型化が進んで3~4cm程度の大きさになり、現在は循環器内科医師が手術を行っています。
日本では不整脈の治療医が植え込み術を行うことが多いですが、当院では不整脈専門医より充分な指導を受けたカテーテル治療の医師が植え込み術を担当しています。カテーテル治療の医師は血管やカテーテルの扱いに熟知しているため、迅速かつ確実な手技が可能となります。特にCRTの移植は、血管の特性の理解が重要となるため、カテーテル治療でのテクニックを駆使し、全例に植え込みを成功させております。
症例に応じて手術時間は前後しますが、ペースメーカーおよびICDは1時間で、CRTは1.5時間で手術は終了します。又、当院では患者さんへの負担を考慮し、静脈麻酔による全身麻酔下で手術を行っております。
2016年から当院にてエキシマレーザーによるリード抜去も始めました。不整脈デバイスの遅発性の合併症として、感染症やリード機能不全が挙げられますが、そのような場合、入れ替えが必要となります。しかし、植え込みから時間経過を経た不整脈デバイスは、体内に堅固に癒着します。特に電線であるリードは血管内に癒着し、牽引だけでは抜けないことが殆どです。そこで、レーザーシースと云う癒着を剥離しながら血管内を進めるデバイスを用い、抜去を行います。また、2019年よりEvolutionと云う最新の抜去デバイスの導入も行いました。 当院では国内に9名のみ登録された指導医の内、1名が在籍しております。合併症のリスクもあり、全国的にも症例数が少ないため、技術的にも非常に慎重を要する手技ですが、全例でリード抜去に成功しております。特にデバイスによる感染症は、迅速に行わなければ致死的になることもあるため、迅速かつ積極的に取り組んでおり、紹介も随時受け付けております。

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治験への取り組み in 2019年

当科は循環器領域の治験、特に医療機器関連の治験に何と 2003年より17年間に渡り齋藤 滋の強いリーダーシップの下で積極的に取り組んできました。医薬品の治験はきちんとした診療を行っている医療機関であれば行うことが可能です。しかしながら、医療機器関連の治験は、どの施設でも行い得るものではありません。当該医療機器の性能、有効性、安全性評価のためには、前提としてその医療機器を適切に使用することができねばなりません。このためには、当然のことながら医療機器に対する治験を行った経験の無い施設よりも優れた医療技術と経験が必要なのです。

なぜ私達は医療機器治験を積極的に行うのでしょうか? 私自身その理由を挙げましょう (1)何よりも最新の改良された優れた医療機器を患者さんに提供できる可能性があるから (2)場合によっては、治験を行うことにより、最新の医療技術を患者さんに提供できる可能性があるから  (3)治験を実施している時には、その医療内容が監査されることにより、標準的な医療実施環境を保つことができる (4)治験実施の過程で、さまざまな国内外の著名な研究者・医師と交流を図ることができ、これにより当科の医療レベルを向上することができる などなどでしょうか。

- これの良い例が、完全生体吸収性薬剤溶出性ステント (Bioregredable Vascular Scaffolding: BVS)治験および、国際共同臨床試験への参加、TAVI (CoreValve, Lotus Valve, Portico)による重症大動脈弁狭窄症患者さんの治療、そして手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療(MitraClip)や、非弁膜症性心房細動に伴う 塞栓症予防のための Watchman device実施を挙げることができます。また、2020年には新たなDESとして齋藤 滋が主任研究者を勤めて治験が行われた Comboステントが認可されました。また、2020年にはさらに先進的な心疾患治療ディバイスに関する治験にも参加する予定です。

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