弁膜症治療と左心耳閉鎖術

ここ数年間で循環器病学臨床面での一番の画期的な治療法は、SAPINT-EX外科的大動脈弁置換術が困難な重症大動脈弁狭窄症症例に対する、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI/TAVR)です。当科は、この分野でも日本国内数少ない治験施設として、その実施に当たってきました。今でも重症大動脈弁狭窄症に対する治療法として外科的大動脈弁置換術しか治療法を提示されていませんでしょうか? 今や、TAVIという画期的な治療法を受けることができるのです。

治療成績はNCDに登録され、より安全で有効な治療が日本全国で行われるように務めています。

これまで日本国内で保険償還下で使用できる TAVIのディバイスは、Edwards SAPIEN-XT, SAPIEN3そして Medtronic CoreValve (Classic)のみですでしたが、2016年12月からは最新のディバイスである Evolut-Rも保険償還下で使用できるようになり。これらの植え込みに関しては、カテーテル治療に関して世界でもっとも豊富な経験と優れた技術を有する齋藤 滋が中心となって、世界的にも素晴らしいハート・チームにより万全の態勢で行っております。

なお、齋藤 滋はSAPIEN-X, SAPIEN3のみならず、CoreValveそしてEvolut-Rに関して、プロクター資格(他の医師に植え込みを指導する資格)を有しています。

当科は SAPIEN-XT, SAPIEN3以外にも CoreValve (Classic), Evolut-Rについても既に豊富な植え込み経験を有し、SAPINT-EXさらに最新の機器である Lotus Valveについても治験による植え込みを行ってきましたし、また、Porticoというものについても、治験での使用を開始しています。

TAVI以外にも、当科は TMVR (Transcatheter Mitral Valve Repair: 経カテーテル的僧帽弁修復術)の治験にも携わり、この最先端医療機器による重症僧帽弁閉鎖不全患者さんの治療(経皮的僧帽弁接合不全修復システム = MitraClip)を行っております。なんと鎌倉は日本でも有数の MitraClip治療症例数を誇ります。

さらに、心房細動に伴う塞栓症予防ディバイスとして期待されている、左心耳閉鎖術(Watchman)に関しても、治験での治療を行っております。

大動脈弁狭窄症という弁膜症は、昔は溶連菌感染症 (扁桃腺炎などが有名です)に引き続いて免疫反応の結果引き起こされるリュウマチ熱が原因として主因でした。しかし、現在では溶連菌感染症に対して、早期に抗生物質投与することにより、適切に治療が行われるため、それに引き続いて起こるリュウマチ熱の発生そのものが著しく低下しています。これに伴ってリュウマチ熱に基づく心臓弁膜症は発生そのものが無くなってきています。次の大動脈弁狭窄症の原因として挙げられる先天性大動脈二尖弁は、常に一定頻度で発生しております。この結果、先天性二尖弁による大動脈弁狭窄症は一定頻度あり、最近でも有名な芸能人がこのために大動脈弁置換手術を受けたそうです。

一方、先進国において、平均寿命の延長に伴う平均年齢の高齢化に伴い急速に増加しているのが、動脈硬化性大動脈弁狭窄症です。患者さんの多くは 80歳前後であり、重症大動脈弁狭窄症のために、日常生活が著しく阻害されているものの、それ以外ではしっかりとした社会生活を送られています。このような症候性重症大動脈弁狭窄症の生命予後は著しく悪く、二年生存率が 50%程度とされており、ある意味で手術不能な悪性腫瘍よりも生命予後が悪い、とも言われています。これらの重症大動脈弁狭窄症に対しても、外科的大動脈弁置換術を行えば生命予後が改善されることもこれまでに明らかとなっております。従ってこれらの患者さんがおられれば、いたずらに内科的治療で引き伸ばし、有効な治療の時期を失する前に外科的大動脈弁置換術を行うべきです。

しかしながら、動脈硬化性重症大動脈弁狭窄症患者さんは、高齢のために、多くの合併疾患を伴うことが多いのが現実です。例えば、手術すれば根治することが可能と考えられる悪性腫瘍があるが、重症心臓病の存在のために手術できない。あるいは、かつて胸部に対して放射線治療を行ったことがある、あいるいは過去に冠動脈バイパス手術を受けたことがあり、再開胸を伴う外科的大動脈弁置換術に大きな危険を伴う。さらには、慢性閉塞性肺疾患 (慢性気管支炎や肺気腫など)がある、あるいは間質性肺炎があり、全身麻酔が必要な外科的大動脈弁置換術がためらわれる。また、脳梗塞の存在や脳梗塞の危険性が大きいためやはり外科的治療がためらわれる。このようなことが臨床の現場では多く遭遇されます。このような場合、これまでは有効な治療を打てなかったのが現状でした。

しかし、2002年4月16日フランスにおいて、Dr. Alain Cribieによりこのような患者さんに対して人類で初めて経カテーテル的大動脈弁植え込み術 (Transcatheter Aortic Valve Implantation/Replacement: TAVI/TAVR)が行われ、一人の重症大動脈弁狭窄症の患者さんの命が救われました。これが今に至る TAVI/TAVRの歴史です。

現在世界的に用いられている TAVI/TAVR (そもそもこの2つの言葉の使い分け何でしょうか? 実は全く同じ意味なのです。ヨーロッパでは TAVI > TAVR、アメリカでは TAVI < TAVRが用いられる傾向にあり、また、循環器内科医は TAVI > TAVRを好み、心臓外科医は TAVI < TAVRを好む傾向にあります)としては、バルーンでステントを拡張する人工生体弁付きステントである SAPIEN-XT, SAPIEN3という名前のものと、人工生体弁付きステントではあるが、形状記憶合金製なので、自己拡張型ステントである CoreValve, Evolut-Rという名前のものの4つのデバイスがあります。当科は CoreValveの日本国内治験実施施設4施設 (湘南鎌倉総合病院、大阪大学、国立循環器病センターおよび埼玉医科大学)の中の一つであり、2012年初めより TAVI/TAVRを行ってきました。また、2013年10月01日からは、厳しい施設認定をクリアした施設においてのみ、健康保険診療下での TAVI/TAVRを行うことが認可され、当科も当初よりその認定施設の一つであります。現在のTAVI/TAVR実施認定施設は、経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会ホームページに公開されています。

さて当科では経カテーテル的大動脈弁置換術関連学会協議会の定めるTAVR専門施設およびTAVR指導施設の基準を満たしており、2019年12月末日までに、治験での実施、倫理委員会認可の下での医師個人輸入による実施、および保険診療下での治療全て含め 553例 (2019年一年間で 139例)に対して TAVI/TAVRにより治療させて頂きました。TAVI/TAVRの実施に当たっては、循環器内科医のみならず、心臓外科医、血管外科医、麻酔科医、心エコー実施医、看護師、放射線技師、臨床工学士、理学療法士、コーディネーターなどの専門職種によるハートチームの形成が不可欠です。これは、非常に重症の患者さんに対して複雑で劇的な治療を成功裏に完遂するためには、一人の力ではなく、全員の力が必要なのです。この意味で、これまでの PCIのように一人の Super Starがいれば治療が完遂する、というものとは全く異なります。当院においては、すばらしいハートチームが作られ、円滑に治療が遂行されています。

また当科では、より安全性と有効性の高いことが予想される新しいTAVIディバイスに関する治験に 2015年より取り組んでおります。その中には先進的な TAVIディバイスである Lotus Valveも含まれています。Lotus Valveはこれまで治療困難であった大動脈弁狭窄症患者さんも安全に治療を行うことができる可能性を秘めたディバイスであります。この Lotus Valveは2020年02月にも臨床使用が認可される見込みです。また、大動脈弁狭窄症に対する治療のみならず、手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療 (MitraClip)に関しても、手術困難な重症僧帽弁閉鎖不全に対するカテーテル治療マイトラクリップ(経皮的僧帽弁接合不全修復システム; MitraClip)も先進的に治験により実施しておりましたが、治験終了後の2019年1年間では44件に達しました。そして心房細動に伴う塞栓症予防のための新たな医療機器である Watchmanによる左心耳閉鎖術(LAAO)に対する治験にも次々と取り組んで来ました。この結果、これらのディバイスも日本国内で認可され、臨床に使用されています。これからの先進的な医療機器を早く患者さんの下に届けるため、私達はこれからも頑張っていくつもりもす。このように当科は日本国内でも大学病院を含めた他の医療機関では行い得ない最新の治療法に取り組んでいる最先端組織です。困難な心臓病に悩まれている患者さんのみならず、日本の医療を改革しくことを目指されている若い医師あるいはコメディカル・スタッフも一緒に頑張っていきましょう。新しい人々が参加されることを歓迎します。

当院では、毎週水曜日午後2時から大動脈弁狭窄症外来(通称 AS外来)を設けております。
もしくは、齋藤滋医師・山中医師・宍戸医師・森山医師・横田医師の外来でも対応させていただいております。大動脈弁狭窄症でお悩みの患者様がいらっしゃいましたら、我々湘南鎌倉総合病院ハートチームにご相談ください。