冠動脈インターベンション(PCI)およびFFR in 2019年

冠動脈インターベンション (PCI: かつては経皮的冠動脈形成術 PTCA とも呼ばれていました)は 1977年に当時チューリッヒ在住であった Dr. Andreas Gruentzigにより初めて実際の患者さんに対して治療が行われました。この時は、単純な風船の拡張により、冠動脈狭窄病変を拡大し成功裏に治療が行われました。 STENTこの時より、既に43年間が経過し、その間に様々な治療法の改良と医学的知識の蓄積が行われ、現在では薬物・運動・生活療法、外科的冠動脈バイパス手術と並んで、冠動脈硬化により引き起こされる虚血性心疾患 (狭心症や心筋梗塞など)に対する安全で有効な治療法として確立されています。齋藤 滋は、この分野における世界的にも先駆者であり、実際最初に齋藤 滋がPCIによる治療を行ったのは、昭和56年 (1981年)のことでした。それ以来、日本国内のみならず全世界での治療経験を有しています。

特に齋藤 滋は、 1981年よりPCIを開始し、これまでに約40年間の経験を有する世界で一番経験豊富な冠動脈インターベンション術者であります。これまでに術者として経験してきた症例数に関する正確な記録は存在しませんが、優に10,000例を凌駕すると思われます。また、実際に齋藤 滋は、世界中の術者が注視する有名なライブデモンストレーション(例えば、EuroPCR、TCT、CCTあるいは世界各地で開催されてきたライブデモンストレーションや日本国内で開催されているライブデモンストレーション)において、ほとんど 100%の成功率で難しい症例を次々と治療してきました。この業績は誰しもが認めるものであり、2015年には EuroPCRより Ethica Awardを受賞し、2019年には TCTより Geoffry O. Hartzler Master Clinical Operator Awardを、そして ICIより Master Operator Awardを受賞してきました。

経皮的冠動脈インターベンションは、循環器領域のカテーテル・インターベンション (Interventional Cardiology)の基本中の基本です。当科がここまで発展できたのも、その PCI の分野でこれまで果たしてきた功績の大きさに依存します。

2019年一年間の実績は、PCI症例数 = 924例でした。この症例数は2016年の 1,046例よりも低下していますが、これは FFR測定などにより、より厳密に虚血有無を評価した上でPCIの適応を決定する強い方針に切り替えたためです。これにより不要なPCIを患者さんに施す、あるいは受けて頂くことが無くなり、結果的に不必要な合併症をもたらす危険を回避することになります。

PCI症例数がその後極端に増加しない要因としてはいくつか考えられます。その最大の要因は、優れた薬剤溶出性ステント (Drug-Eluting Stent: DES)の出現でしょう。非薬剤溶出性ステント (Bare-Metal Stent: BMS)の時代と比較して明らかにステント内再狭窄 (In-Stent Restenosis: ISR)の発生頻度が低下していますので、繰り返して PCIを受けねばならない患者さんは減少しました。第一世代の DES (CYPHERやTAXUS)に比較しても現在臨床の現場において、通常診療の中で用いられている DES (Xience-Alpine, Synergy, Resolute-Onyx, Ultimaster, BioFreedom, Orsio)は難しい病変に対しても明らかに再狭窄低減効果を示しています。総合的に、この DESの進化により、再治療の必要性は 大きく低下しました。また当科では、数多くの新しい DESの治験を行っておりますが、これらの新しい改良された DESにおいては、さらに良好な成績が期待されます。さらにはここ数年の間に当科で主導的に行われてきた新しいDESに対する治験の中には、Ultimaster, Synergy, BioFreedom, Combo, Resolu-Onyx, Orsiroなどの既にPMDA (独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)により認可されたDESが含まれますし、現在更に治験が進行中のDESが数種類含まれます。また、当科においても行われた Absorb-Extend試験および Absorb-Japan試験でその有効性と安全性が評価された、高い期待を集めていた初の完全生体吸収性スキャフォルドである BVS (Bioresorbable Vascular Scaffold)に関しては、2016年12月よりには認可されましたが、残念ながらその後長期での安全性に関する懸念のため中止となりました。これらの臨床試験/治験でその安全性と有効性が評価された新しい DES/BVSが広くたくさんの患者さんに対して安全に使用されるようになることにより、たくさんの患者さんに対してより優れた治療が行われるものと考えます。

石灰化冠動脈病変は治療困難なもので、これに対しては従来ロータブレーターが用いられてきましたが、当科で治験が行われ既に厚生労働省より認可された冠動脈石灰化病変に対して非常に有効な先進的ディバイスである Coronary Orbital Athrectomy (DiamonBack 360)も、2019年には当科で64件に対して用いられました。

PCIの件数の伸びが鈍化している大きな要因として挙げられるのは、一次予防と二次予防の徹底ということが考えられます。一次予防というのは、冠動脈病変発症前から、虚血性心疾患を促進すると考えられる因子を除去することです。つまり、いわゆる冠危険因子として挙げられる、高血圧症、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症などに対して、早期から介入 (治療)を開始することです。もちろん、これらの臨床的疾病の治療のみならず、生活習慣の改善 (禁煙の徹底、日常的な適度な運動や、適正な体重コントロールなどなど)も重要です。これらの一次予防により、虚血性心疾患の発症そのものが抑制されてきています。また、冠動脈病変による疾病が発症した後でも、薬剤や生活習慣への介入により、有効な二次予防が徹底されてきています。これにより虚血性心疾患の再発率も低下してきています。

さらに臨床現場心臓カテーテル室では、FFR (Fractional Flow Reserve: 冠血流予備量比 とか 心筋血流量予備比 とか訳される)を測定しています。その総数は 2019年一年間で483例でしたが、これによりPCIが不必要な患者さんに対して不要なPCIが行われたり、本当は必要な患者さんに対してPCIが行われない、という事態を可能な限り排除しています。

これら全ての要因は、喜ばしいことです。齋藤 滋自身 1981年に初めて PCI (当時は PTCA: Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty と呼んでいました)を行ってきてから既に39年間が経過しましたが、そのような自分の人生を振り返っても本望です。これはもちろん患者さんの立場で考えて、とても喜ばしいことであり、循環器医学の虚血性心疾患に対するささやかな勝利の証でしょう。