EVT(血管内治療)

以前は PTA (Percutaneous Transluminal Angioplasty: 経皮的経管的血管形成術)という呼び名が主流でしたが、必ずしも血管形成のみが治療の方法論ではないことから、最近では EVTという呼び名が使われています。EVTという言葉だけでは、冠動脈に対する治療や、TAVI/TAVRも排除できませんが、一般的に EVTとは PAD (Peripheral Arterial Disease: 末梢動脈疾患)に対するものに限定されます。主な対象疾患は、閉塞性下肢動脈硬化症 特に、重症虚血肢 (Critical Limb Ischemia)、腎血管性高血圧症、内頚動脈狭窄症による一過性脳虚血性発作/脳梗塞症が挙げられます。

末梢血管治療(Endovascular therapy:EVT)の対象は、下肢動脈 (腸骨動脈・浅大腿動脈・膝窩動脈・膝下血管)の病変のみならず、腎血管性高血圧症を引き起こす腎動脈狭窄症や、鎖骨下動脈狭窄症、そして深部静脈血栓症などの静脈疾患も症例によっては対象となります。2019年の1年間で、下肢動脈を470例、腎動脈を15例、鎖骨下動脈を8例、静脈病変を含むその他の治療を21例合計512例に対して EVTによる治療を行うことができました。ご紹介も相まりまして数年前の2倍の件数と増加しており、全国でも有数の症例数を有しております。

末梢血管の疾患は、全身の動脈硬化を反映しての病態であり、血管内治療だけの知識では不足があります。従って、EVTだけではなく薬物治療、運動療法、補助療法を総合的に行いながら全身管理が行える循環器内科医師による治療は、非常に重要なことと考えております。当院では飛田医師を中心に、適切な薬物療法と併せて、冠動脈インターベンション (PCI) で培った技術をいかしてEVTを施行しており、先進的な技術も取り入れることで救肢および再発の低減への大きな寄与をしております。

閉塞性動脈硬化症(ASO) による比較的軽症な症状としては、腸骨動脈や浅大腿動脈病変による、間歇性跛行(歩いて暫くすると、ふくらはぎが痛くなる、または重くなるといった症状)がありますが、これらに対しても、かつては外科的手術療法(バイパス術)でしか治療の出来なかった病変が、治療技術およびデバイスの向上とともに大多数の症例がEVTで治療可能となってきました。前述の様に様々な技術を活かし、2019年の浅大腿動脈領域の慢性完全閉塞に対する治療は、最も重症なTASCⅡ D病変も含め、100%の成功を収めております。

また、ASOにおいて重篤な下腿の潰瘍や壊疽まで至った場合、重症下肢虚血 (CLI; Critical Limb Ischemia)と定義されております。CLIは糖尿病や慢性腎不全による血液透析を施行している患者さんに多くみられます。本邦においては、腎臓内科医による緻密な加療および優れた透析管理にて、慢性腎不全患者さんに対して、世界に冠たる良好な長期治療成績が成し遂げられました。しかしその一方で、合併症としてのCLIが問題となっております。 当科ではCLI における膝下動脈病変に対するEVTも積極的に施行しております。しかし、CLIまで至ってしまった症例の場合、血管内治療だけでは無く、創傷管理、栄養状態の管理などの集学的な治療が必要です。ここで重要なのは、循環器科医師、形成外科医師、腎臓内科医師、外科医師、糖尿病内科医師、看護師、理学療法士、ケースワーカー、管理栄養士、臨床工学士、放射線技師などからなるチームで一人の患者さん、そして重症下肢虚血に晒され壊死・切断の危機にある下肢を救うというアプローチが必要不可欠です。このようなアプローチを行うチームをフット・ケア・チームと呼びます。当院では経験豊富な各科の先生が揃っており、神奈川県下でも有数のフット・ケア・チームを組み、CLIへの診療にあたっております。当科では、院内各部署と緊密に連携し、フット・ケア・チームに携わっております。血行再建や創傷処置の他、特殊な治療も当院で施行が可能です。高気圧酸素療法、LDLアフェレーシス、再生治療などです。これらの適応については、経験豊富なフット・ケア・チームのスタッフで協議し、患者さんにとって最良と思われる治療方針を決定しております。

こうした日常の臨床診療のみならず、治験や臨床研究に対しても、積極的に協力しております。下肢動脈に対する治験も複数行っており、全国の有数な病院と連携を組み、国内のデータを海外に発信することに貢献しております。
加えて、当院単独でも、学術的な活動を積極的に行っております。国内外の学会発表を行い、日本循環器学会、CVIT、JETなどと云った主要学会にも招聘されております。その一環として、当院で過去に積み上げてきた多数のEVT治療の経験を科学的に詳細に分析し、その結果を海外の英文医学論文雑誌に積極的に投稿して受理されております。このような活動を通じて、当科での治療成績を世界に問い、顧みて、今後の更なる治療成績の向上を目指しており、ひいては、今後の医学の発展に寄与すると信じております。

以上のように、新規の医療機器の導入や仔細なデータの蓄積を、日々行っており、本邦の患者さんに最良の医療を提供出来る様、尽力しております。