経皮的僧帽弁接合不全修復システム (マイトラクリップ: MitraClip)

当科では、外科手術が困難な重症の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する低侵襲な治療法であるMitraClip(マイトラクリップ)(経皮的僧帽弁接合不全修復システム)を施行しています。MRの根治療法は、これまでは外科手術(僧帽弁形成術・僧帽弁置換術)に限られていましたが、高齢や併存疾患(心機能が低下している場合、2回以上の心臓・胸部外科手術歴がある場合、肺気腫などの呼吸器疾患や肝硬変がある場合、胸部に放射線治療歴がある場合など)が原因で手術困難な患者様が少なくありませんでした。MitraClipは、そのような患者様にカテーテル(管)による新たな根治療法の選択肢を提供する治療法です。心臓は止めずに治療を行いますので、人工心肺は使用致しません。2008年に欧州で始まり、欧米を中心に使用されておりましたが、日本でも2017年10月に認可が下り、2018年4月から健康保険適応となっています。 戻る »

クリップ導入カテーテル等

僧帽弁閉鎖不全症(MR)について
僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にある弁で、前尖と後尖の2枚の弁からなります。肺を経て十分な酸素を含んだ血液は左心房に入り、僧帽弁を通過して左心室から全身に送り出されます。僧帽弁は、拍動によって左心房から左心室に血液が送られるのに合わせ開閉していますが、MRは僧帽弁が適切に閉じず血液が逆流してしまう疾患です。診断は聴診による心雑音の確認と心臓超音波検査にて行います。自覚症状としては呼吸困難やむくみ、動悸など心不全症状が現れ、重症の場合は突然死を引き起こすなど生命予後(生存の見とおし)を悪化させる事が報告されています。また、逆流によって左心房に負荷がかかることから、心房細動という不整脈を合併することもあります。

つままれて逆流が抑制された僧帽弁

MRは原因によって変性性MRと機能性MRの2タイプに分かれ、変性性MRは、弁尖の軟化や、左心室側から僧帽弁を引っ張っている腱索(けんさく)の断裂など弁そのものの異常が原因ですが、機能性MRは、心筋梗塞や拡張型心筋症にともなう左室・弁輪の拡大により、弁尖の動きが阻害されて逆流が生じます。

MitraClipの手技内容について
全身麻酔下にX線透視や経食道心臓超音波検査を用いて手技が進んでいきます。脚の付け根にある大腿(だいたい)静脈からカテーテルを挿入、心房中隔穿刺(ちゅうかくせんし)を行い右心房から左心房にカテーテルを導き、先端に付いたクリップにより僧帽弁の前尖と後尖を把持して逆流の改善を図ります。逆流の制御が十分でない場合は、何度でもクリップの置き直しは可能で、また、逆流が減少したものの、更に逆流を減らしたい場合はクリップを追加して留置することができます。クリップを僧帽弁に留置し終えたら、脚の付け根の止血を行い治療が終了し、全身麻酔から覚醒します。治療に要する時間は平均約2時間で、通常は術後平均3から4日で退院することができます。

当院でのハートチームについて
僧帽弁の形態によりMitraClipの治療自体が困難な患者様も中にはいますが、最終的には循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医などの多職種からなるハートチームで議論し、全身状態や手術リスク等を考慮した上でMitraClipの適応と治療方針について決定しています。

当科におけるMitraClip治療実績(2018年4月1日から2020年4月14日)

  • 当院は日本で有数のMitraClip実施施設です
  • 治療件数:88件
  • 30日死亡率:1.1%

** 厚生労働省の定めるMitraClip適応必須基準 **

  • MR 3度以上(変性性/機能性どちらも可)
  • 左室駆出率(LVEF)≧ 20%

** 厚生労働省の定めるMitraClip適応付帯条件(必須条件に加え、以下の内いずれか一つが必要) **

  • STS mortality score for mitral valve replacement ≧ 8%
  • Porcelain Aortaまたは上行大動脈の可動性アテローム変性
  • 縦隔の放射線治療歴や、縦隔炎の既往歴
  • 機能性僧帽弁閉鎖不全 かつ LVEF < 40%
  • 年齢 ≧ 75歳 かつ LVEF < 40%
  • 開存している冠動脈バイパスグラフトのある状態での再手術
  • 2回以上の心臓・胸部外科手術歴< 40%
  • 肝硬変
  • その他の外科的手術の危険因子

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